コーヒーと鳩
思い通りに描くことが出来なかったスケッチブックを破り捨てる
みたいに、
喫茶店と図書館とブティックと美術館の端っこをビリビリと裂き
最初のほうは画用紙に張り付ける
なんて幼稚なことに夢中になっていたけど
いつしかその作業にも飽きて
捨てることさえ忘れられた
混沌とした、そんな街。
というよりは町。
で、耳にするのは
車やバイクやその他もろもろの
待てよ。他ってなんだ
排気音。
なんかよりもずっと
鳩の鳴き声だったりする。
本当に鳩の鳴き声か、ふと疑問になる。
姿は見たことがない。
近くから聴こえる…。
探している間に鳴き止んでいるじゃあないか。まったく。
そういう店は大抵「バー」や「カフェ」だ。
でもたまにヴィンテージショップや古着屋だったりする。
見分けるポイントはいくつかあるが、飲食店ならチョークでメニューの書かれた立て看板があるはずだ。
コーヒーという飲み物は不思議で、
黒くて、苦い、
別に、美味しくはない。
そういうものが飲みたいときだけに飲むものだ。
のどが渇いたときにコーヒーを飲む人はいないし、
シリアルにかける人もいない。
コーヒーは、ジャズが似合う。
ビリージーンを聴くときは後方に気を配るのさ。
スムースクリミナルを聴くときは前方、そして下に注意して。万が一のために。
『頭から倒れこむと大変危険です。』
ランダム再生を解除して
リズムに合わせて足が動くためついつい歩調が速くなってしまう。
やめてくれよ。曲が終わる前に目的地に着いてしまうじゃあないか。
信号は青になったが渡るのをやめておこう。
『♪It doesn't matter who's wrong or right~♪』
自転車の少年とすれ違いながら鳩の鳴き声について考えていた。
信号が青になっているときの自動音声の鳩。
自然の中では聞かない鳴き声のような気がした。
ようやく目的地だ。
いや、もう少し早く来ることもできたんだが。
いうほどの猫背だろうか。
それに、背筋をピンと張っても、背が低いなんてがっかりする。
背が低く見えるのは、猫背だからだよ。
言い訳ぐらいはさせてくれよ。
別に何かが変わるわけでもないんだし。
…とは言いづらいけどさ。
関係があるか
ないかはわからないが、
犬よりも猫が好きだ。
『わんわん物語』よりも『おしゃれキャット』のほうが好きだ。
一つに絞るなんてこと、
100個答えるほうがよっぽど簡単だ。
じゃあ二つだけ。
やめてくれ。そんなことを言われたら、余計に難しくなるだけだよ!
今度は200個答えるほうが簡単に思えてくるけれど。
はたして200個も映画を観たことがあるのだろうか。
3つに絞れと言われたのなら簡単さ。
1)バックトゥザフューチャー パート1
2)バックトゥザフューチャー パート2
3)バックトゥザフューチャー パート3
アイスで頼むべきだった。
後悔してる。
まだ一口も飲めていないなんて。
熱々のコーヒーはすごくおいしそうに見える。
熱々のグラタンも。
たこ焼きも
肉まんも
あんまん や たい焼きは要注意だ。
あいつらは外が冷えても中が熱々のままだ。あのやろう。
あそこの二人して黙り込んでいるカップルも、
中はアツアツのままなのだろうか。
あ、おい。女のほうが泣き出したぞ。
ボーイフレンドはなにをしているんだ。
もう十分中まで冷えているんじゃあないか。
キスぐらいしても舌に火傷はしないだろう。
そういうものが飲みたかったんだ。
だけど、来てみたら。
なんだ。やっぱり。美味しくはない。
コーヒーの起源は6世紀のエチオピア高原にある。
らしい。
その後、10世紀初頭から人々に広まって、15世紀初頭の
水の都 ベネチアから、ヨーロッパ全土に広がったが、当時は賛否両論があった。
ヨーロッパの歴史を考えながら一口飲んでみたけど、
よく考えてみれば 頼んだコーヒーはアメリカン・コーヒーだ。
しかもブレンドとあるから、15世紀のベネチアはあまり関係がない。
一杯350円。
店内に流れているのはどこかで聴いたことのあるボサノヴァやジャズ。
コーヒーに合う。
コーヒーが合う。と考える人もいるんだろう。
帰り道、鳩の鳴き声を聴いた。
姿は見えなかったが、近くにいるような気がした。